n/(エヌスラッシュ)は、「選択肢を早めに」を合言葉に立ち上がったプレコンセプション・メディア。今回は、不妊治療とキャリアの狭間で揺れたご自身の経験を糧に、いま多くの人に寄り添うカウンセラー、松下加奈さんです。
森陽菜(以下、森):
本日はお時間いただきありがとうございます!プレコンセプションをテーマにした新しいメディア「n/」を立ち上げるにあたり、松下さんのお話をぜひ伺いたくて。どうぞよろしくお願いします。
松下加奈(以下、松下):
こちらこそ、よろしくお願いします。素敵なテーマですね。
森:
よろしくお願いします。まずは松下さんのご経歴からお伺いしてもよろしいですか?
松下:
はい。キャリアコンサルタントとしては2017年に資格を取りました。現在は主に職業訓練校で就職支援をしています。そして2022年から、不妊治療とキャリアの両立に悩む方向けのカウンセリングも始めました。
森:
まさにご自身も、不妊治療を経験されたと伺っています。
松下:
そうですね。2021年の秋ごろから治療を始めて、体外受精を続け、昨年ようやく子どもが生まれました。
森:
おめでとうございます。治療と仕事の両立は、きっと簡単ではなかったのでは…。
松下:
はい…。実は、両立しようとして、最終的には会社を辞めました。当時は大手企業で働いていて、治療のために業務調整をお願いしたかったのですが、上司から「今はプロジェクトが佳境だから、半年待ってほしい」と言われてしまって。
森:
半年…!それってすごく長いですよね、不妊治療の文脈では。
松下:
そうなんです。私にとってはその半年が本当に重要で、これ以上待てない、もう辞めるしかないなって。
森:
企業の制度だけでなく、職場の“空気”の問題も大きいんですね。
松下:
まさに。制度があっても“言い出せない雰囲気”があって、結局使いづらい。周りにどう思われるかを気にして、声を上げられない方がたくさんいます。
森:
カウンセリングでもそういった声、多いですか?
松下:
ほとんどの方が、上司にどう言えばいいか悩んでいます。「自分はこんなに大変な思いをしている」って感じている。でも、誰にも言えなくて、どんどん孤独になってしまうんですよね。

私は“不妊治療”を、アドバンテージだと思っている
森:
でも松下さんは、そこから今のキャリアに繋がっている。素晴らしいです。
松下:
実は私は、不妊治療は自分にとって“アドバンテージ”だったと思っているんです。
森:
それは…どういうことですか?
松下:
治療の過程で、一度キャリアが“崩壊”したように感じたんです。でも、そのおかげで自分と徹底的に向き合うことができて。結果として、キャリアを再構築できた。人生を見つめ直す貴重な時間になったんですよね。
森:
それはプレコンセプションそのものですね。「将来を考える」きっかけになる。
松下:
本当にそうです。ライフプランとキャリアプランって、女性の場合は特に切り離せない。だから、自分が「どんな人生を送りたいのか」を意識的に考える視点を持ってほしいなと思います。
考えることが、もうアドバンテージなんです
森:
とはいえ、働く20〜30代にとって妊活って、まだちょっと遠い話に感じてしまう人も多いと思います。
松下:
わかります。でも、だからこそ、今から知っておくべきなんです。例えば、生理や排卵の周期に違和感があるなら、若くても婦人科に行ってほしい。それだけで、未来の選択肢はぐっと広がります。
森:
婦人科って、正直ちょっとハードルありますよね…。
松下:
そうなんです。でも「若いから行かなくていい」は間違い。もし不安があるなら、ぜひ早めに通ってほしいですね。
森:
キャリアの面ではどうですか?
松下:
ぜひ一度、自分の「キャリア年表」を書いてみてください。どんな時期に何をしていたか、これから何をしたいか。可視化することで、気づきが生まれます。
森:
行動すること=自己肯定に繋がりますよね。
松下:
はい。そして、「どちらも大切だから苦しい」と悩むこと自体が、実はアドバンテージなんですよ。
森:
え、アドバンテージですか?
松下:
そう。妊活との両立の物理的ハードル(通院と仕事の両立)なのか、感情のハードル(妊活特有の感情との両立)なのか、自分の悩みの「正体」を知ることで、一歩進める。悩んでいるって、それだけ真剣に向き合っている証拠ですから。

止まっているように見えても、それは育っている時間
森:
キャリアと治療の間で立ち止まってしまう人も多いと思うんですが、そんな方に向けて伝えたいことはありますか?
松下:
はい。私は「キャリアはいつか線でつながる」と伝えたいです。途中で止まっても、点と点はいつか線で繋がる。だから、止まっているように見える時間も、きっとあなたを育てているんです。
森:
その言葉、すごく沁みます…。
松下:
だから焦らないでほしい。今いる場所にフォーカスして、自分にやさしくあってください。
森:
最後に、「今、迷っている読者」へ、そっと背中を押すようなメッセージをいただけますか?
松下:
「今のあなたのままで、大丈夫」。
悩んでいる今も、止まっているように見える今も、未来のあなたにきっと繋がっています。
誰かと比べず、自分のペースで。キャリアも妊活も、あなた自身の人生の中で、大切な一部だから。
編集後記
この声が、いま悩みを抱えている誰かに届きますように。
そして、選択肢を「早めに」「やわらかく」手にできる社会が、少しずつ広がりますように。